2009年10月14日
神奈川県教育委員会
教育委員長 平出 彦仁 様
横浜市の教科書採択地区に関する請願
提出者 横浜市の教科書を考える横浜国立大学教員有志
〈 請願項目 〉
横浜市内の教科書採択地区については、現在の18採択地区を維持すること。
〈 請願理由 〉
横浜市教育委員会から貴教育委員会に対し、平成22年度より、市内の教科書採択地区を現在の18地区から1地区に変更する旨の要望が提出された。横浜市内の1採択地区化は、以下の理由から、現行教科書採択制度および関連法の趣旨を無視し、採択地区小規模化の国の方針に逆行するものと言わざるを得ない。
1,義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(以下、教科書無償措置法)16条の立法趣旨を没却するものである。
採択地区の規模については、教科書無償措置法12条で市、郡、またはそれをあわせた区域と規定されているが、政令市についてはこの規定にかかわらず、16条で「区の区域又はその区域をあわせた地域に、採択地区を設定しなければならない。」とされている。
これは、政令市を1地区とした場合、他の採択地区と著しく均衡を失するため設けられた特例である(福田繁・諸沢正道『逐条解説/義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律』第一法規)。横浜市はこの特例措置の趣旨を忠実に実行し、区の区域に採択地区を設定しただけでなく、分区に伴って細分化も重ねてきた。現在の18採択地区は、他の政令市が範とすべき望ましい状態である。
現在、全国一の人口・教科書需要数を擁する横浜市は、この16条の特例措置の趣旨を具体化することが最も必要な政令市である。したがって横浜市内の1採択地区化は、教科書無償措置法の立法趣旨を没却する行為に他ならない。
2,採択地区の小規模化を求める「閣議決定」に逆行するものである。
政府の行政改革委員会は、「規制緩和の推進に関する意見(第二次)、平成8年12月16日」で、「教科書採択制度の改善」として「教育課程の多様化の効果を実際に子供に及ぼしていくためには、主たる教材である教科書が教科書検定制度の一層の透明化等により実際に多様化することに加え、各学校において教科書が選択できることが必要と考える。」「当面、現在の共同採択制度においても、教科書の採択の調査研究に当たる教員の数が増えるのは望ましく、各地域の実情に応じつつ、現在三郡市程度が平均となっている採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善を図るべきである。」と指摘し、この意見に基づき、将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要があるとの観点に立ち、当面の措置として、採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善について都道府県の取り組みを促すとの閣議決定が毎年行われてきた。今年3月31日の閣議決定(「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」)では町村単独での採択地区設定検討を含め、採択地区の小規模化を求めている。
横浜市内の1採択地区化は、これらの国の方針に明らかに逆行するものである。横浜市教育委員会は、この指摘に対し、「政令市については言及していない」旨の回答をしているとのことであるが、学校ごとの採択に向けての小規模化である以上、政令市は適用外との解釈は成り立たない。
3,横浜市教育委員会の採択地区変更理由は利便性の範囲を超えず、立法趣旨や国の方針に逆行して変更しなければならないほどの高度の合理性はない。
横浜市教育委員会は、採択地区変更理由として3点を挙げている。第1は、横浜版小中一貫教育であるが、それが市内同一の教科書を使用しなければ成立しない客観的・合理的根拠は示されていない。一貫教育のための140中学ブロック中、14ブロックが区をまたぐとのことだが、教科書が異なったとしても必要な学習課程は網羅されており、対応は可能であるし、あるいは当該ブロックのみ同一教科書を採択する特例も可能である。
第2に、市内の転入児童・生徒の学習上の困難を軽減することが挙げられている。しかし市内での転居は約5000人と報告されており、これは市外からの転入者数よりも少ないと予想される。転入による教科書の違いは、どの市・町でも存在しており、転入者への学校現場での配慮や工夫は日常的に行われている。
第3は、同一の教科書による研究の充実であるが、一方で多様な教科書による研究の充実という面が希薄になることが予想され、同一教科書であることが一概に研究の充実を保障するものではない。
採択地区変更は、あくまで採択地区の適正規模化、小規模化を目的とすべきである。横浜市教育委員会の変更理由は、いずれも利便性の範囲を超えるものではなく、立法趣旨や国の方針に逆行してまで変更しなければならないほどの高度の合理性はない。
以上の理由により、貴教育委員会が、横浜市の現在の18採択地区を維持することを請願する。
以上